「いつ食べるか」で体は変わる!「時間栄養学」とは?

広島大学大学院 田原優准教授

「同じ食事でも、食べる時間で体への影響が変わります」と話すのは、広島大学大学院の田原優准教授。田原さんが研究する「時間栄養学」とは―。

ひろしまの魅力を高める取組の一環として、県民の健康づくりにつながる研究に取り組む田原さんに、注目の「時間栄養学」について伺いました。

ひろしまの元気をつくる人

インタビューを受ける田原准教授

田原たはら ゆう さん

広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授

早稲田大学先進理工学研究科 博士(理学)修了。その後、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)訪問助教、早稲田大学理工学術院准教授などを経て、2022年より現職。大学3年生から約20年にわたり体内時計の研究に従事。「食べるタイミング」を考える時間栄養学をメインに、睡眠や運動など日常行動まで取り入れた時間健康科学の研究を進めている。

時間栄養学を学ぶ学生

広島から発信「時間栄養学」

専門分野は「時間栄養学」です。従来の栄養学が大切にしてきた「何を・どれだけ食べるか」に、「いつ(タイミング)」という視点を加えた学問です。現在は、さらに範囲を広げ、食事だけでなく、睡眠や運動のタイミングも統合して考える「時間健康科学」の確立を目指しています

この時間栄養学の土台にあるのが「体内時計」の研究です。その原点は大学時代。大学3年生のとき、「人気の研究室があるらしい」と聞いて入ったのが体内時計の研究室でした。体内時計ってとても身近な存在で、「すぐに明日から使える」と納得できる分野でした。

当時の指導教官は常に「それは人に役立つもの?」と聞いてくる先生で、「人に応用できる」ところに興味を惹かれました。指導教官は体内時計の研究から「時間栄養学」という分野を切り拓いた第一人者でもあり、非常に面倒見の良い先生(メンター)でした。

学会へ連れて行ってくれたり、論文執筆を支えてくれたりと、良い出会いに恵まれたことで、気づけばこの研究の世界に深くのめり込んでいました。

UCLAへの留学後、早稲田大学を経て、2022年に広島に来ました。広島は山があって海があって、自然が豊か。子どもが2人いますが、子育てにも良い、とても暮らしやすい場所だと感じています。

「何を」だけでなく「いつ」を考える

これまでの栄養学は、1日の摂取量が中心でしたが、実際の生活では食べる時間は人によって大きく異なります。体内時計の研究を進める中で、「体は時間によって大きく状態が変わる」ということが分かってきました。

同じ食事でもタイミングによって体への影響は変わります。例えば、夜遅い食事は太りやすいなど、太りやすい時間と太りにくい時間があります。また、朝食は体内時計を整える働きがあります。

こうした「時間」の視点を取り入れることで、より現実的で実践しやすい健康づくりが可能になります。

細胞のリズムを観測する

体内時計はこうして調べる

人の体内に近い環境で細胞を育て、時計遺伝子の働きを「光」として捉えます。これを専用の装置で数日間にわたって測定することで、細胞一つひとつが持つリズムを観測します。

そこにカフェインなどさまざまな物質を加え、リズムがどのように変化するかを確認します。こうして有望な結果が得られたものは、次の段階としてマウスでの実験へと進みます。

細胞から動物、そして人へと段階的に検証を重ねることで、最終的には健康づくりや製品開発など、社会での活用につなげていきます。

リズムの波形を見て研究

現在は研究領域を広げ、「時間健康科学」として、食事だけでなく睡眠や運動も含めて研究しています。

例えば運動は、夕方の方が体温や自律神経の状態が整っているため、パフォーマンスが高くなる傾向があります。こうした体のリズムを踏まえて、より効果的な生活習慣を提案したいと考えています。

広島大学内に「時間健康科学プロジェクト研究センター」を立ち上げ、さまざまな分野の研究者と連携しながら、実生活に役立つ知見の蓄積を進めています。

フローズンいちご

日常に役立つ研究を届けたい

研究では、できるだけ日常生活に結びつくテーマを大切にしています。例えば、夕食が遅くなる場合は、あらかじめ軽く食べておく「分食」を勧めています。

何も食べずに遅い時間にまとめて食べると血糖値が急上昇しますが、間に軽食を挟むことでそれを抑えることができます。実際に、間食の取り方によって夕食後の血糖値の上がり方が変わることも分かってきました。

カリウムや食物繊維、ビタミンCが豊富なフルーツなどを取り入れることで、無理なく続けられる方法も提案しています。

研究中の学生

研究を暮らしの力に

こうした研究は、企業や自治体と連携しながら社会に広げていくことが重要だと考えています。実際に、県の支援を受けながら、アヲハタなど県内企業とも共同研究を進めています。

広島県の助成を受け、企業と連携した研究を進め、その成果をイベントなどを通じて県民の皆さんに直接体験していただく機会もありました。研究は、発表して終わりではなく、実際の生活の中で役立ってこそ意味があります。

日々の食事の取り方を少し工夫するだけで、健康につながることを多くの人に知ってもらいたいと思っています。

ノートパソコンとグラフ

子どもの生活リズムにも着目「社会的時差ボケ」に注意

最近は、子どもの生活リズムと健康・学力の関係にも注目しています。朝食を食べない子どもや、平日と休日で起床時間が大きくずれる「社会的時差ボケ」がある子どもは、成績が低い傾向が見られます。

背景には、日本人全体の睡眠不足があります。本来は自然に目覚めることが理想ですが、現代は生活が忙しく、子どもでも夜型になりやすい環境です。食事と睡眠のリズムを整えることが重要だと感じています。

パソコンで作業する田原准教授

夜型の人を支える研究

今後の目標の一つは、夜型の人をサポートすることです。夜ごはんが多ければ多いほど体内時計は夜型に引っ張られやすく、夜食など時間が遅いとさらに夜型に。

夜たくさん食べていると朝が食べられず、抜くことでさらに夜型になります。夜型の生活そのものが悪いわけではなく、社会の仕組みと合っていないことが問題です。朝型中心の社会の中で、夜型の人は負担を抱えやすい。

現在は、体内時計をうまく整える方法や成分についても研究を進めており、将来的には実用的な形で社会に届けたいと考えています。

「時間」を整えることは、特別なことではなく、日々の選択の積み重ねです。その小さな意識の変化が、健康を大きく変えていくと考えています。これからも広島から、新しい健康の考え方を発信していきたいと思っています。

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